市報にいがた 令和2年2月2日 2712号 1面から3面
最終更新日:2020年2月2日
成長産業を支援 活力ある新潟へ
新潟市は、中小企業や成長産業への支援、企業誘致などを行い、経済活力の向上と雇用の創出に取り組んでいます。
今号では、成長産業の一つである航空機産業について紹介します。
問い合わせ 成長産業支援課(電話:025-226-1694)
経済活力向上と雇用の創出へ
新潟市内には大小合わせて3万5千以上の事業所があります。そのうちの約99パーセントが中小企業で、地域経済の原動力となっています。
新潟市では、このような中小企業の活性化に向け、既存産業の生産性の向上や新事業の展開に対する支援、創業を応援する取り組みなどを進めています。
今後さらなる成長が見込まれるICT(情報通信技術)や航空機産業への支援にも力を入れています。ICT産業についてはAI(人工知能)を観光分野で活用する実証事業を行い、航空機産業については得意分野の異なる企業が連携して航空機関連部品の一貫生産体制の構築などを目指す「NIIGATA SKY PROJECT(ニイガタ スカイ プロジェクト)」を進めています。
このほか企業誘致にも取り組んでおり、首都圏からのICT関連企業の市内進出も実現しています。
今後も、中小企業や成長産業への支援、企業誘致を通じて、経済活力の向上と魅力的な雇用を生み出し、活気あふれる新潟市を市民の皆さんとつくっていきます。
新潟市長
新潟市の航空機産業の取り組み
NIIGATA SKY PROJECT(以下「NSP」)は2011年から新潟地域で行われている産学官が連携した航空機関連産業の取り組みの総称です。企業が航空機産業で培った技術力を基に、医療機器製造などの高度なスキルが必要な分野にも参入していくことを目指しています。
なぜNSPに取り組むことになったのか、どのような取り組みをしているのかを紹介します。
地域経済の活性化を図る
NIIGATA SKY PROJECT(以下「NSP」)の構想が始まったのは13年前。新潟市とその周辺地域には金属加工などの優れた技術を持つ中小企業がたくさんありますが、安価な海外製品に押され厳しい経済状況が続いていました。その課題を解決するため既存産業を高度化し、高品質で価値の高い製品を作り地域経済を活性化する必要がありました。
航空機産業に取り組む
当時から、航空機産業は航空機の需要を背景として成長が確実視されている分野でした。参入には高い技術力や品質保証体制などが求められ、それをクリアすることは企業の成長とPRにつながります。
これらに着目し、取り組むこととなった事業がNSPです。発足して9年が経過した現在では、県内外の50の企業・研究機関などが参加し、取り組みは大きく広がっています。
新たなビジネスへの支援
新潟市ではさまざまな成長産業を支援しています。今年1月からJR東日本スタートアップ株式会社と市、ベンチャー企業が連携し、情報通信技術や人工知能を活用した新ビジネス「観光タクシーの相乗りマッチングアプリ」や「日本酒観光案内バー」の実証実験に取り組んでいます。また、先端技術などを学べる場を設け、人材育成にも力を入れています。
こうした成長産業への支援のほか、企業誘致、市内企業への就労促進など多様な支援を行い、雇用の創出や地域の活性化を目指しています。
NSP取り組み紹介
共同工場による航空機部品製造の集積や新サービスの創出など、NSPは新潟の成長産業の発展に向けて取り組んでいます。
小型ジェットエンジンと機体開発支援
物資の搬送や無人探査などを行う無人飛行機の国産開発を目指しています。
2012年に小型ジェットエンジンを開発し、改良を続けています。開発で獲得した技術を航空機の発電タービンなどへ活用することも検討しています(写真(1))。
また昨年は、両翼合わせて6メートルもの大きな翼が付いた無人飛行機の機体開発を支援しました。同年10月に西区で飛行実証を行い、上空100メートルで連続1時間以上の滞空に成功しています(写真(2))。将来的には4時間以上の滞空の実現を目標にしており、広範囲での映像撮影や通信サービスなど新たな活用も検討しています。
(1)NSPで開発した小型ジェットエンジン
(2)無人飛行機の飛行実証の様子
国内でも珍しい 戦略的複合共同工場
航空機は部品作りが難しいだけでなく高い安全性能が求められ、国際的な厳しい審査などを受ける必要があります。中小企業が個々で取り組むにはハードルが高いため、NSPでは複数の企業が連携する体制を整えました。現在国内に4カ所しかない航空機部品共同工場のうち2カ所が新潟市にあり、その一つが南区の「戦略的複合共同工場」です(写真(3))。
工場に入居する3社を含む7社でNSCA(ナスカ)(Niigata Sky Component Association)というグループを形成し、部品の一貫生産体制の構築を目指しています。一昨年には受注窓口の一元化を目的とした新潟エアロスペース株式会社を設立するなど、受注拡大に向け新しい動きも出てきています。
(3)戦略的複合共同工場(南区)
海外エアショーへの出展
2009年から航空機産業の海外市場調査とNSPのPRのため、世界最大規模といわれる航空宇宙機器の国際見本市「パリエアショー」などに出展しています。エアショーでは1週間ほどの出展期間中に数兆円単位の取り引きが行われることがあり、とても大切なPRの場です。
2019年、「パリエアショー」出展時の様子。これまでにNSPの15社以上が参加
人材確保に向けた取り組み
戦略的複合共同工場では、航空機産業に関心を持ってもらおうと、工業系の生徒を対象とした工場見学を実施しています。これまでに新潟工業高等学校と長岡工業高等専門学校の生徒が見学しました。
新潟空港を生かしたサービスを
世界では多くの個人所有向け小型航空機が移動や観光に使われています。日本ではそうしたサービスを行う事業者が少ないことから、新潟空港に航空機整備、パイロットや観光の手配などを行う事業者を集積させ、新たな成長産業につなげられないか検討しています。
磨いてきた表面加工技術を世界とつながる大空へ
NSPに参加し南区の戦略的複合共同工場に入居する企業に、航空機産業に参入したきっかけや今後の目標を聞きました。
新潟メタリコン工業株式会社
代表取締役 兼 営業本部長
井筒 昇(いづつ のぼる)さん
表面加工一筋
我が社は1950年9月に先代である私の父が中央区で創業し、その後東区に拠点を移し、表面加工一筋でやってきました。在庫を持たず倒産しにくいという理由から表面加工を始めたと先代から聞いています。
表面加工は対象物のさびや傷を防いで美しさを保つほか、電気を通じやすくするなどの効果があり、ものづくりで重要な役割を担っています。
皆さんに身近な物では自動車エンジンの部品、鉄道車両など、幅広く取り扱っています。
逆境から航空機産業へ
航空機産業への参入を考え始めたのは2008年ごろ。当時、金属加工や表面処理などの仕事の受注が、費用が安いという理由で東南アジアの会社へ移ってしまっている状況でした。
航空機産業に参入できれば大きな信頼とPRにつながります。市からNSPへの参加の声掛けもあり、新たな発注元を得ようと参入を決意しました。
若手社員に夢ややる気を持ってもらいたいと思ったことも理由の一つです。
険しかった参入への道のり
NSP、NSCAの一員として、2017年から南区の共同工場で航空機のエンジン、トイレ、キッチン部分に使われている部品などの表面加工を担当しています。しかし、これまでの道のりは険しいものでした。
航空機産業に参入するには高品質な物を生産でき、その環境を維持・向上・管理できる体制が整っていなければなりません。それを証明する「JISQ(ジスキュー)9100」や「Nadcap(ナドキャップ)」といった航空宇宙関連の国際認証のほか、発注元が設定する審査をクリアする必要があります。これらに対応するため、NSCAで情報共有を図ったり、社員の意欲が上がるよう社内の経営体制を変えたりしました。また、認証審査機関とのやり取りのために英語を話せる人材を採用したほか、県外から講師を招いて勉強会を開催するなどしました。すべてをクリアするまでに5年以上かかりました。
新たな仕事と人材を獲得
航空機産業に参入したことで、良い影響が出ていると感じています。常に新しいことに挑戦してきた結果、信頼と技術の向上につながり、航空機関連以外でも新たに大手企業から仕事の依頼が来るようになりました。
また、共同工場を見学した学生が我が社へ入社するなど、雇用の面でも効果を感じています。
将来の目標
将来は会社全体の売り上げを今の3倍以上にしたいと考えています。航空機関連の売り上げは今は全体の1割から2割程度ですが、将来的には5割を目標にしています。
社員がやる気を持ち、新しいことに挑戦できる「進化し続ける会社」でありたいと思います。
表面処理装置。幅3メートルのものまで対応。対象物はいくつもの水槽の中に順に入れられ、表面が加工される
高速で回転するエンジン部品のひとつ(製造元は共同工場内に入居する佐渡精密株式会社)
航空機だけじゃない 成長産業への取り組み
JR EAST STARTUP PROGRAM(ジェイアール イースト スタートアップ プログラム)
新潟駅開発を見越し、AIなどの先端技術を活用した新たなビジネスや観光の促進など、地域創生につながる取り組みをJR東日本と連携して募集。今年1月から採択事業者による実証実験が行われています。
N Tech Labo(エヌ テック ラボ)
最先端のテクノロジーを通じ、さまざまな人が集い、学び、つながる場づくりを支援。新たなビジネスの創出と未来を担うICT人材の育成に取り組んでいます。
編集後記~取材を終えて
地元に密着しながら確かな技術力で世界に挑戦する企業が市内にあることを知り、一市民としてとても誇らしく感じました。
「新潟市って飛行機が有名だよね」と言われる日が来ることを楽しみにしています。
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